〈今さら聞けないB/S〉基本のキから徹底解説 〜貸借対照表を読み解けば、ビジネスの全体像が見えてくる〜
目次
序章|なぜ今「B/S」を学ぶべきなのか
①「ビジネスは苦手」な人ほど、B/Sが武器になる理由
「財務なんて数字が多くて難しそう」「経理部門の人が見るものでしょ?」そんな風に思っているあなたこそ、実はB/S(貸借対照表)を学ぶ最大の恩恵を受けられる人かもしれません。
なぜなら、B/Sは複雑な数式や計算を覚える必要がなく、むしろ「企業の今の状況を一目で把握する地図」のような役割を果たすからです。営業職の方なら取引先企業の安定性を、人事担当者なら自社の成長投資の余力を、マーケティング担当者なら競合他社の戦略の背景を理解できるようになります。
「数字は苦手だけど、相手のことを理解したい」「なんとなくではなく、根拠を持って判断したい」という気持ちがあれば、B/Sはあなたの強力な味方になります。
②なぜ経営者も投資家も「B/S」を重視するのか
経営者にとってB/Sは、企業の「体力」や「持久力」を測る指標です。どれだけ売上が好調でも、借金が多すぎれば資金繰りに行き詰まる可能性があります。逆に、売上が一時的に落ち込んでも、十分な現金や資産があれば次の成長機会を待つことができます。
投資家の視点では、B/Sは「この会社は投資に値するか」を判断する重要な材料となります。将来性のあるビジネスモデルを持っていても、財務基盤が脆弱では長期的な成長は期待できません。一方で、堅実な財務体質を持つ企業は、不景気や予期せぬ事態にも耐え抜く力があると評価されます。
つまり、B/Sを読めるということは、経営者や投資家と同じ視点で企業を評価できるということなのです。
③「お金の流れ」ではなく「企業の健康診断表」としてのB/S
よく混同されがちですが、B/Sは「お金の流れ」を示すものではありません。それはキャッシュフロー計算書(C/F)の役割です。B/Sが示すのは、特定の時点における企業の「財政状態」、つまり「今、何を持っていて、何を借りていて、実質的にどれくらい豊かなのか」という情報です。
人間の健康診断で例えるなら、血圧や体重、血液検査の数値のようなもの。これらの数値を見れば、その人の現在の健康状態がわかり、将来のリスクも予測できます。企業のB/Sも同様で、現在の財務状態から将来の成長可能性やリスクを読み取ることができるのです。
④本記事のゴールと全体構成
この記事のゴールは、B/Sの専門用語に惑わされることなく、「企業の本当の姿を見抜く力」を身につけることです。まず基本的な構造を理解し、身近な例で感覚を掴み、実際の企業事例で実践的な読み方を学びます。最後に、これらの知識をあなた自身のキャリアにどう活かすかまで含めて解説していきます。
数字が苦手な方でも安心してください。難しい計算は一切出てきません。大切なのは「なぜその数字が重要なのか」という背景や意味を理解することです。
第1章|そもそもB/S(貸借対照表)とは何か?
①「B/S=バランスシート」の定義と目的
B/S(Balance Sheet:貸借対照表)とは、企業がある特定の時点で「何を持っているか」「何を借りているか」「実質的にどれくらい豊かか」を示した財務諸表です。なぜ「バランス」と呼ばれるかというと、左右の合計金額が必ず一致するように作られているからです。
この「バランス」は偶然ではありません。企業が持っているすべての資産は、必ず「借りたお金(負債)」か「自分たちのお金(純資産)」のどちらかで賄われているという、シンプルな原理に基づいています。
B/Sを見る目的は、その企業が「安全に事業を続けられるか」「成長するための体力があるか」「効率よく資産を活用できているか」を判断することです。これは、個人の家計管理でも、投資判断でも、転職先選びでも応用できる考え方です。
②3つの構成要素:「資産」「負債」「純資産」をかみ砕いて説明
**資産(Assets)**は、企業が「持っているもの」すべてです。現金や銀行預金はもちろん、商品在庫、工場や機械、土地建物、特許権なども含まれます。さらに、売掛金(後で回収予定のお金)や投資している株式なども資産に含まれます。
**負債(Liabilities)**は、企業が「借りているもの」「将来支払う義務があるもの」です。銀行からの借入金、取引先への未払金、従業員への未払給与、将来支払う予定の税金なども負債です。つまり、いずれお金を返さなければならない「借り物」が負債です。
**純資産(Net Assets/Equity)**は、資産から負債を差し引いた「実質的な企業の財産」です。株主が出資したお金(資本金)と、これまでの事業で積み上げた利益の蓄積(利益剰余金)などが含まれます。これは企業の「本当の豊かさ」を表します。
③「資産=負債+純資産」という等式の意味
この等式は、企業経営の本質を表しています。例えば、1000万円の工場を建てるとき、企業には3つの選択肢があります。
- 全額を銀行から借りる → 資産1000万円、負債1000万円、純資産0円
- 全額を自己資金で賄う → 資産1000万円、負債0円、純資産1000万円
- 半分ずつにする → 資産1000万円、負債500万円、純資産500万円
どの場合も「資産=負債+純資産」が成り立ちます。この等式が崩れることは絶対にありません。なぜなら、企業が何かを手に入れるときは、必ず「借りる」か「自分のお金を使う」かのどちらかだからです。
この原理を理解すれば、B/Sの数字がなぜバランスするのか、そしてなぜこの3つの要素が重要なのかがわかります。
④他の財務諸表(P/L・C/F)との違いもざっくり理解しよう
財務諸表には主に3つあります。B/S以外の2つも簡単に紹介しておきましょう。
**損益計算書(P/L:Profit & Loss Statement)**は、一定期間の「もうけ」を示します。売上から費用を引いて利益を計算する、いわば企業の「成績表」です。「今期はどれくらい儲かったか」がわかります。
**キャッシュフロー計算書(C/F:Cash Flow Statement)**は、現金の出入りを記録したものです。利益が出ていても現金が不足することがあるため、「実際のお金の動き」を把握するために使われます。
B/Sが「現在の状態」、P/Lが「期間の成果」、C/Fが「現金の動き」を表すと覚えておけば十分です。この記事では、この3つの中でも最も基本的で、かつビジネス全体を理解するのに役立つB/Sに焦点を当てています。
第2章|身近なB/S:家計簿や学生生活に置き換えてみる
①個人の「なんちゃってB/S」をつくってみる
B/Sの考え方を身近に感じるために、大学生のA君の「個人B/S」を作ってみましょう。
A君の資産
- 銀行預金:30万円
- スマートフォン:8万円(購入価格、現在の価値は考慮せず)
- パソコン:15万円
- 原付バイク:12万円
- 教科書・参考書:3万円
- 資産合計:68万円
A君の負債
- 奨学金残高:250万円
- クレジットカード未払い:5万円
- 友人からの借金:2万円
- 負債合計:257万円
A君の純資産
- 68万円 – 257万円 = -189万円
A君の純資産はマイナスです。これは珍しいことではありません。学生の多くは将来の収入を見込んで投資(奨学金で教育を受ける)をしている状態だからです。
②スマホや奨学金も”資産”と”負債”に当てはまる
ここで興味深いのは、同じスマートフォンでも見方が変わることです。購入時は「現金8万円」が「スマートフォン8万円」に変わっただけなので、資産の総額は変わりません。しかし、時間が経つにつれてスマートフォンの価値は下がっていきます。
奨学金は「負債」ですが、同時にその奨学金で得た教育は「将来の収入を得る能力」という形の資産でもあります。ただし、この「能力」は B/S には数字として現れません。これが個人の B/S と企業の B/S の大きな違いの一つです。
企業の場合、従業員のスキルや経験、ブランド価値、顧客との関係など、お金に換算しにくい「見えない資産」がたくさんありますが、これらは基本的にB/Sには記載されません。
③「資産が増えれば安心」とは限らない理由
A君がアルバイトで貯めたお金で、さらに10万円のゲーム機を買ったとしましょう。資産は78万円に増えますが、これで本当に豊かになったでしょうか?
答えは「場合による」です。そのゲーム機が A君の将来の仕事(ゲーム開発者になりたい)に役立つなら価値のある投資です。しかし、単に娯楽のためだけなら、現金という流動性の高い資産を、価値の下がりやすい資産に変えただけです。
企業でも同じことが起こります。現金をたくさん持っている企業が必ずしも優秀とは限りません。成長機会があるのに投資しないのは、株主にとってはむしろマイナスかもしれません。逆に、借金をしてでも将来性のある設備投資や研究開発に取り組む企業の方が、長期的には価値が高まる可能性があります。
④B/S的視点を持つと、お金との向き合い方が変わる
個人のお金の管理においても、B/S的な視点は役立ちます。家計簿で収入と支出を記録するのは P/L 的な発想ですが、定期的に自分の資産と負債を整理してみるのは B/S 的な発想です。
例えば、クレジットカードの分割払いやリボ払いは「負債」です。一方で、自己投資のための書籍購入や資格取得費用は、将来の収入向上につながる「資産形成」と考えることができます。
また、住宅購入を考える際も、「住宅ローン」という負債と「不動産」という資産を同時に得ることになります。重要なのは、その不動産が将来的に価値を保てるか、そして自分の収入でローンを無理なく返済できるかという点です。
B/S的な思考を身につけると、目先の損得だけでなく、長期的な財務の健全性を考えてお金と付き合えるようになります。これは企業分析だけでなく、人生設計においても非常に価値のあるスキルです。
第3章|企業のB/Sを読み解く:トヨタ・ソニーの実例から
①実際のB/S(貸借対照表)を見てみよう
実際の企業のB/Sは、先ほどの個人の例よりもはるかに複雑です。しかし、基本的な構造は同じです。ここでは、日本を代表する2つの企業、トヨタ自動車とソニーグループのB/Sを見ながら、読み解き方を学んでいきましょう。
企業のB/Sには、個人では見られない項目がたくさん出てきます。「売掛金」「棚卸資産」「有価証券」「無形固定資産」「社債」「引当金」など、初めて見る用語に圧倒されるかもしれません。でも大丈夫です。これらすべてを覚える必要はありません。
重要なのは、「これは資産・負債・純資産のどれに分類されるか」「この会社の特徴を表しているのはどの数字か」を見抜くことです。
②トヨタの「現金保有」「固定資産」から何がわかる?
トヨタ自動車のB/Sを見ると、まず目につくのは現金及び現金同等物の多さです。2023年3月期では約5兆円の現金類を保有しています。これは驚異的な金額で、「トヨタ銀行」と呼ばれることもあるほどです。
なぜトヨタはこれほど多くの現金を持っているのでしょうか?自動車産業は景気の影響を受けやすく、また大規模な設備投資が必要な業界です。リーマンショックのような金融危機が起きても事業を継続できるよう、十分な現金を確保しているのです。
一方で、固定資産も約15兆円と巨額です。これには世界各地の工場、生産設備、研究開発施設などが含まれています。自動車メーカーは「装置産業」と呼ばれ、大量生産のための設備投資が欠かせません。
この現金の多さと固定資産の大きさから、トヨタが「安定性を重視しながらも、将来への投資を怠らない経営」をしていることがわかります。
③ソニーの「負債比率」は高い?低い?
ソニーグループのB/Sを見ると、トヨタとは違った特徴が見えてきます。ソニーの総資産に占める負債の割合(負債比率)は約70%程度です。これはトヨタの約50%と比べると高い水準です。
しかし、これが問題かというと、必ずしもそうではありません。ソニーの負債の多くは、金融事業(ソニー銀行、ソニー生命など)によるものです。銀行や保険会社は、顧客から預金や保険料を預かるため、必然的に負債が大きくなります。
また、エンターテインメント事業では、映画制作や音楽制作に大きな先行投資が必要です。ヒット作品が生まれれば大きな収益をもたらしますが、そのためには一定のリスクを取った投資が必要になります。
ソニーのB/Sからは、「多様な事業ポートフォリオを持ち、それぞれの事業特性に応じた財務戦略を取っている」ことが読み取れます。
④「安全性」「成長性」「効率性」の見方の基本
B/Sから企業を評価する際は、主に3つの観点があります。
安全性は、企業が倒産するリスクの低さです。現金や預金などの流動資産が多く、借金などの負債が少ない企業は安全性が高いと言えます。ただし、業界特性を考慮する必要があります。
成長性は、将来の拡大可能性です。設備投資や研究開発投資、M&Aなどの成長投資を積極的に行っている企業は、将来的な事業拡大が期待できます。一方で、過度な借金による成長は持続可能性に疑問符がつきます。
効率性は、資産をどれだけ有効活用できているかです。同じ資産額でより多くの売上や利益を生み出している企業は、経営効率が良いと評価されます。
トヨタは安全性に優れ、ソニーは成長性と効率性のバランスを取った経営をしていると言えるでしょう。どちらが良いかは、投資家の方針や市場環境によって変わります。重要なのは、その企業の戦略と実際のB/Sが整合しているかを見極めることです。
第4章|なぜB/Sはビジネスの判断材料になるのか
①投資家が見る「財務の健全性」とは
投資家がB/Sを重視する理由は、「この企業にお金を投資して大丈夫か」を判断するためです。どんなに革新的なビジネスモデルや優秀な経営陣がいても、財務基盤が脆弱では長期的な成長は期待できません。
投資家が特に注目するのは「自己資本比率」です。これは総資産に占める純資産の割合で、企業の安定性を測る重要な指標です。一般的に30%以上あれば安全とされ、50%以上あれば非常に堅実と評価されます。
しかし、単純に自己資本比率が高ければ良いわけではありません。成長企業の場合、積極的に借入をして事業拡大に投資することで、より大きなリターンを得られる可能性があります。投資家は「適切なリスクを取っているか」「そのリスクに見合うリターンが期待できるか」を総合的に判断します。
また、「流動比率」(流動資産÷流動負債)も重要です。これが100%を下回ると、短期的な資金繰りに問題が生じる可能性があります。健全な企業では150%以上が望ましいとされています。
②銀行はB/Sをどう見て融資を決めている?
銀行が融資を決める際、最も重視するのは「貸したお金を確実に回収できるか」です。そのため、銀行員はB/Sを入念にチェックします。
まず見るのは「担保にできる資産」があるかです。土地や建物などの不動産、機械設備、在庫などは担保価値があります。一方で、のれんや特許権などの無形資産は、実際の価値を測りにくいため担保としては評価されにくいのが現実です。
次に「返済能力」を見ます。現金や預金はもちろん、売掛金や受取手形など、近い将来現金化される資産の amount を確認します。これらが借入金に対して十分な水準にあるかを判断します。
さらに「経営の安定性」も重要な要素です。負債が多すぎないか、特定の取引先に依存しすぎていないか、季節性のある事業でもキャッシュフローが安定しているかなどを総合的に評価します。
興味深いことに、銀行は必ずしも「無借金経営」を最高評価するわけではありません。適切な借入をして事業拡大を図り、確実に返済している企業の方が、「お金を借りて事業を伸ばす能力がある」と評価されることもあります。
③スタートアップと老舗企業、それぞれのB/Sの特徴
スタートアップ企業と老舗企業のB/Sには、明確な違いがあります。この違いを理解することで、企業のライフステージや戦略を読み取ることができます。
スタートアップ企業のB/Sは、一般的に以下のような特徴があります:
- 現金の割合が高い(投資家からの調達資金)
- 固定資産が少ない(まだ大規模な設備投資をしていない)
- 負債が少ない(銀行からの借入が困難なため)
- 純資産に占める資本金の割合が高い(出資による資金調達が中心)
老舗企業のB/Sは以下のような特徴があります:
- 固定資産の割合が高い(長年の設備投資の蓄積)
- 利益剰余金が多い(長年の利益の蓄積)
- 安定した借入関係(銀行との長期的な信頼関係)
- のれんや商標権などの無形資産(長年培ってきたブランド価値)
どちらが良いかは状況によります。スタートアップは成長性に期待できる一方で、リスクも高くなります。老舗企業は安定性がある一方で、変化への対応力が課題となることがあります。
④就活・転職でも役立つ「企業を見る目」
就職活動や転職活動でも、B/Sを読む能力は大いに役立ちます。面接で「弊社についてどんな印象を持っていますか?」と聞かれたとき、B/Sの分析結果を踏まえて答えられれば、他の候補者と差をつけることができます。
例えば、「御社のB/Sを拝見したところ、自己資本比率が業界平均を上回っており、財務基盤が非常に安定している一方で、研究開発投資も積極的に行われていることから、安定性と成長性を両立した経営をされている印象を受けました」というような答えができれば、企業研究の深さをアピールできます。
また、転職を考える際の企業選びでも有効です。給与や福利厚生だけでなく、その企業が将来にわたって安定して事業を継続できるか、成長投資を続けられるかを判断する材料になります。
特に、急成長しているベンチャー企業に転職を考える場合は、現金の状況や資金調達の履歴を確認することが重要です。どんなに魅力的な事業でも、資金が尽きてしまえば事業継続は困難になってしまいます。
第5章|あなたのキャリアにB/Sをどう活かす?
①財務がわかるとビジネスの全体像がつかめる
B/Sを読める能力は、あなたの職種に関係なく、ビジネス全体への理解を深めてくれます。営業職であれば、顧客企業の財務状況を把握することで、より適切な提案ができるようになります。相手企業が設備投資を検討できる余力があるのか、それとも コスト削減を重視すべき状況なのかが見えてくるからです。
マーケティング職の場合、競合他社のB/Sを分析することで、相手の戦略を推測できます。研究開発費を大幅に増やしている競合がいれば、新商品の投入を予測できますし、現金を多く保有している企業はM&Aによる事業拡大を狙っている可能性があります。
人事職でも、自社の財務状況を理解することで、採用計画や人件費予算の背景が見えてきます。なぜ今年は採用を控えめにしているのか、なぜ特定の部門の採用を強化しているのかが、B/Sの変化から読み取れることがあります。
②営業・人事・マーケでも「財務感覚」は強みになる
どの職種においても、「財務感覚」を持った人材は重宝されます。なぜなら、すべてのビジネス活動は最終的に財務諸表に反映されるからです。営業の成果は売上として、マーケティングの投資は費用として、人事の採用活動は人件費として、すべて数字に現れます。
営業職の方が財務を理解していると、単に売上を追うだけでなく、「利益率の高い案件を優先する」「回収リスクの低い顧客を重視する」といった、より戦略的な営業活動ができるようになります。
マーケティング職の方が B/S を読めると、投資した広告費や販促費が、どのように企業の資産価値向上に貢献しているかを説明できるようになります。単なるコストではなく、ブランド価値向上や顧客基盤拡大への投資であることを、数字を使って説得力を持って説明できます。
人事職の方が財務を理解していると、人材投資の ROI(投資収益率)を計算したり、優秀な人材の確保が企業価値向上にどの程度貢献するかを定量的に示したりできるようになります。
③決算書を読める人材はどこでも重宝される理由
決算書を読める能力は、業界や職種を超えて価値のあるスキルです。その理由は、財務諸表が「ビジネスの共通言語」だからです。
どんな業界の企業でも、どんな規模の組織でも、お金の流れや財務状況を把握するために同じフォーマットの財務諸表を作成します。つまり、一度この「言語」を覚えてしまえば、どんな企業の状況でも理解できるようになるのです。
また、経営陣とのコミュニケーションでも大きな武器になります。社長や役員は常に財務状況を意識して意思決定をしています。そのような相手と同じ土俵で議論できる人材は、自然と重要な仕事を任されるようになります。
転職市場でも、財務の知識がある人材は高く評価されます。特に、営業やマーケティングなどの職種でありながら財務も理解している人材は、「ビジネス全体を俯瞰できる人材」として非常に価値が高いとされています。
④学生・若手社会人が「いま」学ぶ価値とは
学生や入社間もない若手社会人にとって、B/Sを学ぶメリットは計り知れません。まず、就職活動において企業を正しく評価できるようになります。求人サイトの情報や会社説明会の華やかなプレゼンテーションだけでは見えない、企業の「本当の実力」を数字から読み取ることができるのです。
若手のうちからB/Sを読む習慣をつけることで、「数字に基づいて考える力」が身につきます。これは将来的に管理職やリーダーになったときに必要不可欠な能力です。感覚や経験だけでなく、客観的なデータに基づいて判断を下せる人材は、どの組織でも重宝されます。
また、早い段階で財務の基礎を身につけることで、将来的なキャリアの選択肢も広がります。財務・経理職へのキャリアチェンジはもちろん、経営企画や事業開発、M&A、投資銀行、コンサルティングなど、高度な財務知識を要求される職種への道も開かれます。
さらに、個人の資産形成においても大きなアドバンテージとなります。投資先企業の選定、不動産投資の判断、起業時の資金計画など、人生の重要な局面で財務の知識が活かされる場面は数多くあります。
終章|「数字が苦手」でもB/Sは武器になる
①まずは「資産・負債・純資産」の3つだけで十分
「B/Sは難しそう」と感じている方も多いでしょうが、実は覚えるべき基本概念はたった3つだけです。資産(持っているもの)、負債(借りているもの)、純資産(実質的な財産)。この3つの関係性さえ理解すれば、あとは個別の勘定科目の名前を覚えるだけです。
最初は細かい項目の意味がわからなくても構いません。「これは資産の項目だな」「これは負債の項目だな」という大まかな分類ができれば十分です。重要なのは、その企業が「安全か」「成長しているか」「効率的か」という大局的な判断ができることです。
また、絶対的な金額よりも、前年との比較や同業他社との比較の方が重要です。「売上高1兆円」という数字だけでは大きいのか小さいのかわかりませんが、「前年比20%増」「同業他社平均の1.5倍」といった相対的な情報があれば、その意味を理解できます。
②読む力 → 考える力 → 伝える力への展開
B/Sを学ぶプロセスは、3つの段階に分かれます。
第1段階:読む力 まずは B/S の基本的な構造を理解し、数字の意味を読み取れるようになることです。「この会社は現金をたくさん持っているな」「借金が多めだな」といった基本的な状況把握ができれば十分です。
第2段階:考える力 数字の背景にある経営戦略や業界特性を考えられるようになる段階です。「なぜこの会社は現金を多く保有しているのか」「この借金は事業拡大のための戦略的な借入なのか」といった分析ができるようになります。
第3段階:伝える力 自分の分析結果を他人にわかりやすく説明できる段階です。上司への提案、顧客への説明、同僚との議論などで、B/Sの分析結果を効果的に活用できるようになります。
この3段階を意識しながら学習を進めることで、単なる知識の暗記ではなく、実践的なビジネススキルとしてB/Sを身につけることができます。
③財務はビジネスの”共通言語”、だからこそ習得する意味がある
世界中のどこの国でも、どんな業界でも、企業は財務諸表を作成します。表記する言語は違っても、その構造や考え方は共通しています。つまり、財務は真の意味での「国際共通語」なのです。
将来的にグローバルな環境で働きたい方、海外企業との取引を行う可能性がある方にとって、財務の知識は必須と言えるでしょう。海外の取引先や投資家と対等に議論するためには、彼らと同じ「財務という言語」を話せることが重要です。
また、急速にデジタル化が進む現代においても、財務の基本的な考え方は変わりません。AIやビッグデータを活用した新しい分析手法は生まれていますが、その根底にあるのは「資産・負債・純資産」という普遍的な概念です。
つまり、今B/Sを学ぶことは、将来にわたって価値を持ち続ける「一生もののスキル」を身につけることなのです。
④次に学ぶべきステップ(P/L・C/F、財務分析)への導線
B/Sの基本をマスターしたら、次は他の財務諸表にも挑戦してみましょう。
**損益計算書(P/L)**では、企業の「稼ぐ力」を分析できるようになります。売上高営業利益率や ROE(自己資本利益率)などの指標を使って、企業の収益性を評価できるようになります。
**キャッシュフロー計算書(C/F)**では、実際のお金の動きを把握できます。利益は出ているのに現金が減っている企業や、逆に赤字でも現金が増えている企業の謎を解くことができるようになります。
さらに上級レベルでは、財務分析の手法を学ぶことで、より深い企業分析ができるようになります。ROA、ROE、EBITDA、PERなど、投資家や経営者が重視する指標の意味と使い方をマスターすれば、プロレベルの企業分析ができるようになります。
また、業界分析の視点も重要です。同じ財務指標でも、製造業とサービス業、成熟産業と成長産業では解釈が大きく異なります。業界の特性を理解することで、より正確な企業評価ができるようになります。
最終的には、これらの知識を組み合わせて投資判断や経営判断ができるレベルを目指しましょう。自分で株式投資を行う際の銘柄選択、転職先企業の選定、起業時の事業計画作成など、人生の重要な局面で財務の知識を活用できるようになれば、B/Sを学んだ価値は十分に回収できるはずです。
数字が苦手だった人も、この記事を最後まで読んでいただけたなら、すでにB/Sの基本は理解できています。あとは実際の企業のB/Sを見ながら、少しずつ経験を積んでいくだけです。最初は完璧に理解できなくても構いません。継続的に学習を続けることで、必ずビジネスの世界で通用する財務センスが身につくはずです。
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